ダバオ滞在訪問記
ボランティアの原めぐみさんがダバオのCOWDI(Center for Migrant Workers in Davao)を訪れた訪問記をまとめてくれましたのでご紹介しますね。
訪問の目的と経緯
私は現在大学院に所属しており、修士課程の2年生です。修士論文では、フィリピンで育った青年期のJFCのライフヒストリーから、JFCのアイデンティティ形成に影響をもたらす要因は何かを分析していきたいと思っています。
2007年にマニラにいた時、マリガヤハウスを訪れお話を伺ったのがきっかけで、JFCネットワークの活動を知り、ぜひ活動に参加したい!と思うようになりました。大学生の頃、東京オフィスやマリガヤハウスで数カ月のインターンシップも経験させていただきました。
2007年のスタディーツアーにも参加させていただき、ダバオのCOWDIにも訪れました。当時、COWDIはJFCとその母親への支援を始めたばかりでした。私は2009年にもCOWDIを訪れる機会があり、その際、スタッフの方やクライアントさんから、どんどん増え続けるJFCケースにフィリピン人スタッフだけで対応していくのは大変難しいという話を聞きました。そこでマリガヤハウスでのインターンシップ経験を活かして、私も少しでもお役に立てないかな、と思い東京オフィスに相談しました。すると、私のダバオ滞在を快諾してくださり、COWDIケースについての資料や情報をオリエンテーションしてくださり、COWDI訪問が実現したわけです。
COWDIの紹介
COWDIは、Religion of Good Shepherd Philippines(RGS)というキリスト教系の宗教団体が立ち上げたフィリピン人移住労働者の帰国サポートや安易な海外就労に対する啓発活動、人身売買防止活動などを行う団体(COW)のダバオ事務所です。COWは、マニラやセブなどにも事務所があるそうですが、JFC問題に取り組んでいるのは、ダバオ事務所だけのようです。
2007年にCOWDIがJFCとその母親を支援し始めてから現在までに、COWDIを通してクライアント登録のあるJFCとその母親は、53ケースあり、11件がキャンセル、1件の解決、そして41件が進行中です。COWDIにクライアントさんは、法的支援が必要な場合はJFCネットワークにクライアント登録ができるという仕組みがあります。2009年にマリガヤハウスがCOWDIと共同で、IOM(国際移住機構)の委託事業として行ったJFCのためのダバオ会合がきっかけで、ダバオに住んでいるJFCや母親たちにCOWDIの存在を広く知られるようになりました。したがって、2010年は新規のクライアントが増加することが予想できます。
インターンシップの内容
1.日本国籍に関するフォーラムの開催
初日にCOWDIに行って、事務局長であるシスターに頼まれた仕事は、クライアントたちに向けて行う日本国籍に関するフォーラムの開催でした。それは私がダバオを訪れたちょうど1週間後の4月5日(月)に予定されてありました。マリガヤハウスや東京事務所から資料を頂き、そのフォーラムで扱うプレゼン資料作りを行いました。当日は、約50名のJFCとその母親たちがフォーラムに参加してくれ、国籍に関して活発な議論をすることができました。
2.家庭訪問
COWDIにはSKKJというJFCの母親たちによって組織化された内部団体があります。SKKJの代表であるJeanさんと副代表のEdithさん、書記のAlmaさんが、他のメンバーに連絡をしてくれ、2週間で10件もの家庭訪問をさせていただくことができました。ほとんどが新規クライアントさんだったこともあり、家庭訪問と同時にインタビューを行うこととなりました。私が質問したことをSKKJオフィサーがまとめてくださったり、セブアノ語でわかりやすく要約してくれたりしてくださったおかげで、大変有意義で中身の濃い家庭訪問をすることができました。クライアントの生活水準は家庭によって違いますが、すべての家庭の悩みは子どもの養育費についてでした。
3.JFCへのインタビュー
また、COWDIのクライアントである19人のJFC(15歳〜24歳)へのインタビューの機会も頂きました。インタビューを通して、思春期〜青年期のJFCたちは、日本国籍の権利を剥奪されている、日本人父親から養育費を受けていない、それ故に学業を断念せざるを得ない、母親以外のステップ・ファミリーとの関係がうまくいっていない、自分の所属がどこなのかわからない、日本へ行きたいが安全な生活ができるか心配だ、など様々な悩みを抱えていることがわかりました。それは、法律、教育、家庭、アイデンティティ、移住や就労など多層的な問題であり、簡単に解決のできることではありません。しかし、JFCたちはそれぞれに夢をもっており、その未来志向な「語り」は頼もしく、前向きなものでした。そんな彼/彼女らとの対話に私も勇気づけられました。
図1 日本国籍に関するフォーラムの様子(2010年4月5日撮影)
図2 家庭訪問の様子(2010年4月6日撮影)
学んだことと目標達成度
JFCの一人が「日本政府は、JFCに対して日本人と公平な扱いをしてほしい。そしてJFC自身は、日本社会に認めてもらえるよう責任感を持ってほしい」と話してくれました。政府に対しての抗議や権利の主張は、JFC自らが強くなって初めてできることであると自覚しているのです。今後、JFCの未来を開いていくのは、彼/彼女ら自身なのだということを確信しました。私はこれからも彼/彼女らの挑戦を応援し続けて行きたいと心底思いました。
2週間という短期間に私ができたことは本当に僅かでした。しかし、私が人と人とが関わりあって活動を続けるJFCネットワークとCOWDIの繋がりの一端を担うことができていたら幸いです。
COWDIのスタッフの皆さま、2007年のスタディーツアーに引き続きホストファミリーとして私を受け入れてくださったJeanさんを始め、SKKJのメンバーの方々やJFCたちのご厚意とホスピタリティに感謝しています。そして東京事務所、マリガヤハウスのスタッフの皆さまにはお忙しい中、準備期間や訪問中、そして帰ってからもフォローして頂きました。貴重で素晴らしい経験をさせて頂き、本当にありがとうございました。
大阪大学大学院 原めぐみ